院内発熱 Hospital fever を疑うとき😷
初期研修でよく出会う「入院患者の発熱では何を疑うか?」についてです。
外来患者の発熱の原因といえば
①感染 Infection ②悪性腫瘍 Malignancy ③膠原病 Collagen(ANCAなど含む)
を考えながら診察をしていきますが、基礎病態のある程度わかっている入院患者が突然の発熱をした時の鑑別は少し変わってきます。
院内発熱では「 6D」を考えます。ちなみに院内発熱のうち50%が感染性、25%が非感染性と言われます。
① Drug induced
薬剤性の発熱です。抗ヒスタミン剤、輸血、生物学的製剤などの使用が原因になり得ます。よく言われるのが皮疹や、熱の割に心拍数が増えない比較的徐脈、採血上好酸球の増加などがみられると言われますが、実際に薬剤熱では皮疹20%、好酸球増加20%、比較的徐脈10%と言われています。なのであれば参考程度に所見を取りつつ疑われる薬剤があればすぐに中止することが重要です。
② Devices 人工血管などVascular Devices, Catheter related(VAP、UTI)
人工呼吸器、尿道カテーテル、中心静脈カテーテル(CVC)など医療機器が原因になる感染症による発熱。次のようなものがある。
・人工呼吸器管理中の患者の人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)
・尿道留置カテーテル関連尿路感染症 (catheter-associatedurinary tract infection:CAUTI )
・カテーテル関連血流感染症 (catheter related blood stream infection:CR-BSI)
それぞれ疑う所見として、人工呼吸器管理中であれば酸素化の低下や頻回な喀痰吸引の必要性、尿道留置カテーテル内の混濁、中心静脈周囲の皮膚の発赤・疼痛などがある。カテーテル関連血流感染症 CR-BSIを疑った際は、直ちにカテーテル抜去し血液培養とカテーテル先端の培養を提出することが多い。
特に注意が必要なのは感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)。脳血管での動脈瘤からのくも膜下出血SAHなどは致死的になるため常に鑑別に上げる必要がある。
③ PseuDogout"偽痛風 (CPPD:Calcium PyroPhospate Dihydrate):
尿酸による急性の関節腫脹が痛風であるが、尿酸結晶以外の結晶の析出によって生じる
偽痛風は突然に関節腫脹や疼痛という急性炎症を起こす。痛風は足親指付け根に多いのに対して、偽痛風は全身の関節に生じる。
特に脊椎の環軸関節に生じる偽痛風はcrowned dens syndrome(環軸関節偽痛風)と言われ頚の痛みとともに発熱を生じている際は鑑別にあがる。
※急性 CPP結晶関節炎
リスク因子:年齢、外傷歴、変形性関節症、ヘモクロマトーシス、低 Mg血症、高Ca血症、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、ループ利尿薬
※関節液所見:好中球優位細胞数は 5,000/μ L など(一般に化膿性関節炎の場合は 5 万個/μ L 以上になることが多い。)
④ CD腸炎や真菌
正式には クロストリディウム・ディフィシル関連下痢症(Clostridium difficile associated diarrhea:CDAD)。入院患者で抗菌薬加療をしている患者での発熱を見たら下痢の有無を確認する。
明らかな細菌感染やウイルス感染が原因でない発熱の場合には真菌が原因の可能性がある。カンジダによる眼内炎や敗血症など重症患者では時折起こりうる。β-D glucanなど採血データが診断に有用な真菌もいる。
⑤DVT、PE
深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:DVT)、肺血栓塞栓症(pulmonary embolism:PE)はともに連続した病態であり、長期臥床(特に整形外科の下肢の手術の術後)では注意する必要がある。
また体のどこかに血腫がある場合は血腫の吸収の際に発熱が起こるので全身の診察は重要である。
⑥Decuvitus褥瘡、SSI(surgical site infection)、Deep abscess 深部膿瘍
褥瘡による感染による発熱は原因になるので日頃から褥瘡予防をするのは重要です。
手術後の場合は手術部位の感染が原因になり、基本は抗菌薬と創部の洗浄・デブリドマンです。
深部の膿瘍が原因であることもあるので体表から感染源がわからない際はCTなどで評価する必要があります。
⑦その他(血腫吸収熱、副腎不全、急性膵炎、甲状腺クリーゼ)
感染性であれば敗血症や感染性心内膜炎IEなども考える。膿瘍や椎体炎、結核なども忘れていないかを振り返る必要があります。
まずはメジャーな6Dを確認しその他の原因について探ることで見落としのない発熱の評価ができるとおもます。実践していただければ幸いです。