つれづれなるままに
ASの麻酔について思うことを(ASに限らないけれども)
【脈圧の話】
そもそも脈圧(pulse pressure:PP)は一回拍出量 (SV)に比例する。
Compliance(C)=ΔV/ΔP (圧(P)をかけた時にどのぐらいの容量 (V)膨らむのか)
これを大血管のcomplianceに置き換えると
1人の人間の大動脈コンプライアンス(広がりやすさ)は一定と考えると(実際にはアウトプットが増えたり血管抵抗が増えると大血管コンプライアンスは下がる、最近流行りのEa dyne)
大血管での
圧の変化量ΔPとは、収縮期と拡張期の圧変化、つまり脈圧PP。
容量の変化ΔVとは、収縮期と拡張期の容量の変化、つまり一回拍出量SVとなる。
大血管C=ΔV/Δ P
=SV/PP
つまりPP×C=SV
となりSVが大きい人はPPが大きくなる(比例の関係)
※ところで、高血圧などで動脈硬化が激しい人はコンプライアンスCが低いので、大血管コンプライアンスが正常の人と比較すると、同じSVでも脈圧PPが大きくなる(SBPが高くなり、dBPが低くなる)
普通の人 PP(普通)×C(普通)=SV
動脈硬化の人 PP(大)×C(低)=SV
つまり、Hypovolemia(SVが実際には少ない)なのに、PPが大きくなるため、SBPが高く見えるにもかかわらず実際には前負荷が少ない状態(CVPやLAPが少ない)なので、高齢者や動脈硬化の強い人の麻酔導入で血圧が大きく低下するという経験をすることが印象的になることが多くなる。(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1804713329535152325)。ハイポボレミアなのにハイポボレミアだと気が付かない(そもそも大抵の麻酔導入の低血圧はハイポボレミア)。
つまり脈圧PPとは
①1人のひとのトレンドを見る分にはSVの変化を見ることができるので輸液反応性の評価に使えるし
②複数の人を見る際には大血管コンンプライアンスがどの程度かを推測する手段となる
【ASの話】
話をASにもどすと
ASは肥大心になっている(求心性肥大で左室の内腔が狭くなる)。
ASがなくても高血圧などで、肥大心はDdが小さくStroke volume(SV)が小さい。
拡張期血圧dBPは末梢血管抵抗(SVR)、拡張期に大血管に存在する血液量(Cardiac Output(SV×HR)やシャント、PDA、ARなども依存)、血液の粘稠度など(いわゆる後負荷といわれるパラメーターに含まれるものたち)に依存する。
拡張期血圧dBPと脈圧PPが決まると、自然と収縮期血圧SBPと平均血圧MBPが決定する。
ASの場合、脈圧PPが小さい(小脈、SVが小さい:求心性肥大とASによるSVの制限のため)ので平均血圧mABPを保とうとすると、どうしてもSVRを保つ必要が出てくる。というよりさらにいうとASの血行動態自体がSVRが高く維持されていることに大きく依存している(他にはVSDやhigh flow系の疾患も心タンポ・急性のMRの一部なども同様)。
※逆に
圧負荷ではなく容量負荷がかかるMRやARでは遠心性の拡大(左室が広がっていくDdが大きくなる)が生じてSVが大きくなるため、脈圧PPが大きくなり、目的のmABPを維持するのが容易になる(Dd90mmなどの拡張型心筋症の麻酔導入で意外と血圧が落ちない所以)
【全身麻酔の話】
全身麻酔の導入を行うと血行動態が大きく変化する。
フェンタニルやレミフェンタニルによるStress volumeの低下による前負荷低下や徐脈化に伴うForce-frequency relationship (FFR)による心収縮力(Ees)低下
プロポフォールによる血管拡張に伴うSVRの低下(Ea低下)
(一方でミダゾラムでは血管抵抗が落ちにくいのでSVRの低下は軽度に止まる)
筋弛緩による筋肉ポンプの拡張による前負荷の低下や微細な頻脈化、腹壁の緊張低下に伴う大動脈の圧迫減少による後負荷の低下
陽圧換気にともなう心臓への前負荷の低下、左室後負荷の低下(右室後負荷の変化:酸素化によるものと陽圧によるもの)
などが同時に起こる。
極論いうと全身麻酔導入後血圧を維持するためには脈圧PPを維持するか、dABPを維持するかすればある程度耐えられるが
ASの麻酔管理が難しいと言われる所以は特にSVを維持する際のボリュームの安全域が狭い(早い)ということがある。
肥大心(心室)は(拡大している心臓と異なり)拡張能が落ちているのでLVEDPVRの傾きが急峻になっっている(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1728556231630143705)。
肥大心では、左室のEDP(または左房圧LAPまたはPAWPまたはCVP)を1mmHgあげるのに必要なボリュームが少ないことを意味する。つまり少ない容量ですぐにCVPが上がるし、逆に少しの出血でCVPが低下する(小児もこういう点ではボリュームの変化が早い)。
そしてこの少ないボリュームで圧が変化するなか、LOS (ddが小さいこととASによるSVの少なさ)とLVEDPが高くなる鬱血を避ける心不全管理を行わないといけないため、ボリューム管理がタイトになる。
これが肥大した心臓でのボリューム管理の難しさの大きな所以かと思う。
※さらに肥大心は心筋そもそもの酸素需要と易刺激性が加わるので虚血・不整脈イベントが起こる前に対処する時間的制約も加わる。
そのため全身麻酔導入前の循環動態の把握というのは(ASに限らないが)需要になる。
脈圧がどれぐらいあるのか(動脈硬化がある人なのか、大血管コンプライアンスやSVRを加味してSVも保たれている人なのか)
拡張期血圧は低いのか高いのか(HRを加味して末梢血管抵抗が高いのか低いのか、シャントはあるのか、ARの合併はあるのか)
末梢静脈確保するなら手の静脈は怒張しているのか(静脈系にボリュームがあるのか、TRあるのか、CVPがどれぐらいか、首にエコー当てる時間あるならCentralの静脈系にボリュームがどれぐらいあるのか)
SpO2をつけた際に手の冷感はどれぐらいあるのか(SVは保たれているのか、PIはどれぐらい保てているのか)
Aラインを確保するならさらに情報が増えて、触れて大脈か小脈なのか(SV多いのか少な良いのか)、エコーで見た橈骨動脈は太いのか細いのか(Systemicにアウトプットがどれぐらいあるか)、Aラインの立ち上がりはどうなのか(dp/dtは収縮力はEesは良いのか、ASがあるのか)、Aのノッチの高さ(脈圧に対するノッチの位置)・速さ(反射波の速さ)で血管抵抗がどの程度でSVがどの程度と予想されるか(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1725634164467073397)、独特な波形はあるのか(2峰性のAcuteMRやタンポのようなSVの限られた波形やLVOTS波形は認められるか)などの情報が手に入る(Awake Aラインの利点)。
橈骨のAラインとマンシェットのとの血圧の大小関係までわかると、アウトプットや血管拡張、狭窄の可能性の情報が手にはいるのでより、末梢冷感やAラインの逆血のスムーズさの情報なども併せてより一層導入に関する情報になる。
さらに
CVラインを確保すれば、CVPの値、TRの有無、リズム、心房のコンプライアンス( CVP波形のA波、V波)心室のコンプライアンス(y谷 エコーのTMFで言うE波)など最近流行りのVExUSで測定したい輸液許容性に関する情報が手に入る(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1665580243174694921)。なんならCVP波形やPAWPはエコーでの心房ストレインそのもの。
SGC入れるのであればさらに右心のSV、PVR、RVEes、LAP、MR、MS、左房コンプライアンス・左室コンプライアンス(左心の輸液許容性)といった情報まで手に入る。
それら含めて全身麻酔による血行動態の変化を踏まえ薬剤の選択をしていく。
ただノルアドとか血管収縮薬流しながら全てのASで同じように麻酔導入をするだと、なんか美しくない気がする。
同じASでもASの経時変化がどの程度なのか( 肥大の具合、MRの合併、Afや心房の拡大LAVi、PH、右心系変化(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1712999849808003130)や、左室自体が拡大するDilation phaseに入っているか、ARを合併しているか(拡大しているかDd大きくなっているか)、透析シャントがあるかなどによっても麻酔導入後の血行動態の介入がことなってくる(ボリューム管理が必要かHRへの介入が必要か、SVRか)
慢性ARなど低いCVPで維持さているものの、SVRが低く維持され、大血管ー左室にボリュームの多い場合はそもそもDdが大きいことも相待って、前負荷低下やSVR低下に伴う血圧低下は軽度になる。
ASにARや透析を合併する場合は、LVへのFillingは保たれるので前負荷低下という意味ではAS単独より楽になるかもしれないが、一方で拡張期血圧低下による冠動脈とCVPが高くなる一方で末梢循環が足りなくなっている(乳酸が上昇してくるが、CVP高めSVO2高め)という状況には注意しないといけない(PDAの血行動態も似ているかも)。
結局は目の前のひとのSVとdABPをどう維持するかと、どの程度維持されやすい人かを見分けるのが重要になってくる。
AS単独で前負荷の低下でSVが落ちやすいなら全身麻酔で落ちた分は水を入れる、SVRは術前同様を維持しなければならないし、SVを補えないならば術前以上にサポートしなければいけなくなる。
SV保ちやすいならば少しは楽になるが拡張期維持するためにはHR維持をしないといけない。
心臓手術時、ポンプ離脱では、弁疾患は治っているが心臓の肥大や拡大といった心室・心房の構造は変化しない。そのため必要な脈圧は弁疾患治した分しか変わらない。
肥大した心臓では脈圧は出ずらいので目標血圧を確保するためには、SVRが必要になるケースもあるし、Ddが小さい場合には脈が重要になったりする。そもそもSVが小さいので肥大心ではVペーシングやジャンクショナルで降りるのがしんどい(心房が拡大していて導管機能とリザーバー機能が優位になっていたら意外と降りられる)。
逆に心室が拡大していたり、心房の拡大が著名であると、ジャンクショナルだろうがvペーシングだろうが、Atrialキックがなくても、心室の収縮が非同期でも脈圧はしっかりたもてるのでSVRを底上げしなくてもポンプ自体はおりられる。
だから術前の心臓みておくとどの脈でおりられるかとか、どのペーシングでおりられるかとかが予測できたりする(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1991265233575313879)。
ポンプ離脱時のカテコラミンとか血管収縮薬を使用するか、ペーシングなににするかを予測する上で
術前エコーというのは情報の宝庫(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1746344422189728144)。
左室のDd/ds(拡大) EF(Ees・Eaの割合) IVST/PWT(肥大)LAVi(心房の拡大 ポンプ/導管/リザーバー機能の推測)、TAPSE、TRPGと右左の心臓の経時変化の情報が手に入る。
なので話をASに戻すとASの肥大心はポンプ離脱後も脈圧は小さい(内腔狭いから)。そのため血管収縮しないと(末梢循環をやや犠牲にしないと)足りないケースがある。普通のASだけ(心室肥大だけ)だとVペーシングは苦手で、Atrial Kickが欲しくなる、経時変化で心臓が変化していくと意外とどんどん楽になる(MRでもASでもMSでも、人間って素敵)。
ところでASでニカルジピン使うと血圧下がりすぎるという人いるけども
血圧を維持する上でにSV(前負荷)の割合が少ない中SVRをさげたらすーっと血圧が下がるのは当然で、CVPやLVEDPが高い状態で血管拡張薬を使用する場合にはASでも意外と下がりにくい。
そのときのボリュームが少ない状態でニカルジピンやヘパリンを投与する際は注意しないといけないのはASに限ったことではない(ASで目立つだけ)。
【結局 心不全管理】
結局はPVloopを描かんとだめで前負荷、後負荷、収縮力、脈とCO(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1713333246690463924)。PV Loopを描く上で、麻酔導入前に患者から得られる理学所見はすごく重要で麻酔を始めてしまったら、モニター波形から読み取るしかない(Aラインの波形、CVP波形、PAP波形の情報を読み解く、加えてTEEも情報の宝庫)
そんなかんなで、色々話は脱線したけども
結局、ASでも、MRでも、並列循環でも、なんでも実際心臓について考える上でやっていること目標になることは同じで「心不全管理」
①LOS(SV)と②鬱血を避けることだけが目標(https://x.com/yoshiaki_666_/status/1728211337149550620)。あくまで血流の話で言えば(灌流(圧)はまた別のはなし)。
ASは徐脈、ARは頻脈。ASにARを合併してたら脈は?も同じ話。LOSと鬱血を起こさない安全範囲で維持すればいい。
ASで頻脈になれば、SV(PP)は減るけどLVEDPは下がるだろうし(LOSになるけど鬱血ではない方向に動くし、ラピッドペーシングはやりすぎ)
ARで徐脈になれば、SV(PP)は増えるけどLVEDP上がる(逆流も増えるので)(LOSにはならないけど、鬱血にすすむ、だからSVRが低いCVPが低い生理的代償が勝手にされている)
並列でもhigh flowなら、心房の鬱血を防がんといけないし、SystemicのLOSを避けるように右と左のバランスをコントロールする。 Low flowは心臓というより酸素化の問題。
安全域があればカテコラミンそもそも不要やし、安全域(LOSと鬱血の間のボリューム)がなければカテコラミンの変力作用に頼ればいい。多くの心臓手術ではカテコラミンの変時作用だけでいけていると思う。
なのでASに限った話ではなくて、SevereASだけが麻酔の導入の難しさではなく、実際には心臓の肥大拡大具合や心房機能、合併している弁膜症、総合的に見て、どの要素(収縮、前負荷、後負荷、リズム)が不足しがちで補わなければいけないのかを考えながら、心不全にならないように管理しなさいよというお話しで、それを心臓の4つの部屋(右房・左房・右室・左室)、肺、全身の動脈系・静脈系を併せて考えて管理するという根底は同じなんだよう
ってマックでJKが話してました。