麻酔科-くろねこBlog

麻酔科医と子育てとか日々の学び

キシロカイン製剤の使い分け😏

<目次>

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(1)キシロカイン 製剤の種類

 麻酔中でよく使う製剤には以下の様なものがある。

●ポリアンプル1%(10mg/ml)
添加物(1ml 中):塩化ナトリウム 8mg pH調整剤 適量
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キシロカイン注シリンジ1% (10mg/ml)
添加物(1ml 中):塩化ナトリウム 8mg pH調整剤 適量f:id:yotti666:20211005214829p:plain

●静注用2% 100mg/5cc(20mg/ml)
添加物(1ml 中):塩化ナトリウム 6mg pH調整剤 適量
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●4%液 (40mg/ml)
添加物:メチルパラベン、pH調整剤、黄色5

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●8%スプレー (80mg/ml) 1プッシュで0.1mL(リドカインとして8mg含有)
添加物:l-メントール、エタノール、マクロゴール400、サッカリン
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●局所麻酔用 1%(10mg/ml)
添加物(1mL中): 塩化ナトリウム 8mg メチルパラベン 1mg pH調整剤 適量
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キシロカインゼリー2%(20mg/ml)
添加物:メチルパラベン、プロピルパラベン、カルメロースナトリウム、pH調整剤
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●オリベス 1% 200ml 2g(10mg/cc)リドカイン塩酸塩
添加物:塩化ナトリウム[1.8g(Na:154mEq/L)]

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(2)添加物の違い

添加物として問題になるのはエタノールとメチルパラベンである。
メチルパラベンアナフィラキシーの原因が指摘されているためこれが含まれた製剤は静脈注射として用いるべきではない。
そのため局所麻酔用と静脈注射用のキシロカイン 製剤が存在する(局所麻酔用でもメチルパラベン が含まれていたいものもある)。

●メチルパラベン が含まれるもの
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もう一つ原因となるのがエタノールである。
麻酔中慣習的に使用されていたのが8%キシロカイン スプレーであるがこれには20%程度の濃度のエタノールが含まれているとされている。

エタノールが含まれるもの
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特に小児の症例などで使用してしまうとむせ込んでしまったり最悪喉頭痙攣を引き起こす可能性もあるので使用はしないようにしている。Awake挿管などでもあえて20%のアルコールを口の中に撒かれるのも嫌な気がするので用いないのが無難である。
やるならば4%キシロカイン液や2%ビスカス を用いて行う。

4%キシロカイン(40mg/ml) の使用する量としては
2mg/kg(50kgの人で100mg=2.5cc)であれば血中濃度は局所麻酔中毒の5ug/mlの半分のCmax:2.5ug/mlなので多すぎることはない。
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もし仮に8%キシロカイン スプレーを使う場合は1プッシュ8mgのキシロカイン がでるので12プッシュ程度は問題ないがあまりおすすめはしません。

(3)キシロカイン 中毒になった際は?

キシロカイン血漿濃度と全体的効果の関係は次の様になる.

血漿濃度(ug/ml)      全体効果
1-5                          心室不整脈抑制 鎮痛
5-10       ふらつき 耳鳴
10-15       痙攣 意識消失
15-25      昏睡 呼吸停止
25-        心血管抑制

Ref) Liu SS. Joseph RS: Local anesthetics. In: clinical anesthesia(5th ed). Edited by Barash PG. Cullen BF. Stoelting RK. Philadelphia. Lippincott Williams & Wilkins. 2006:453-71.


局所麻酔薬の極量という表現は正しいか異論があると思います。
リドカインの極量は大人で200mg程度(4mg/kg程度:文献により差がある)といわれていますが
局所麻酔薬を投与する経路(局所、ブロック、硬膜外、静脈注射など)、アドレナリンの添加などによって吸収され血液濃度の上昇をきたす時間がことなるからです。

ちなみに血中濃度
静脈注射>胸腔内注入>肋間神経>仙骨>硬膜外>腕神経叢>皮下浸潤の順で上がりやすい。

そこでおそらく問題ない量というのを考える時に静脈注射の場合の血中濃度についての論文があります。

①Pharmacokinetic Aspects of Intravenous Regional Anesthesia(Anesthesiology June 1971, Vol. 34, 538–549.)では3mg/kgのリドカイン静脈注射では投与直後の血中濃度が15ug/ml程度になるとされています。

②Lidocaine Pharmacokinetics in Children during General Anesthesia (ANESTH ANALG 1986.65.279-82 )では
6ヶ月以上の小児では大人と血中濃度の上昇クリアランスはほぼ変わらず、1mg/kgの投与で最高血中濃度は5ug/ml程度となっており、かつ2コンパートメントモデルに適合すると結論されています。


このふたつの論文を合わせると、静脈注射用のキシロカイン 2% 100mg/5mlは50kgの人で1mg/kg(50mg 2.5cc)を投与すると血中濃度は5ug/ml程度となり、ふらつきや耳鳴りなどの臨床症状を訴える可能性があるということを示しています。

以上をまとめると、局所麻酔でも仮に全て静脈内に吸収されてしまった場合は1mg/kgのリドカインで局所麻酔中毒を生じることになります。

 

ガイドラインではイントラリポスなどの脂肪製剤を投与することでキシロカイン 濃度を低下させることが推奨されている。
投与量としては50kgの人では

1.5ml/kg(75ml)をボーラスし
0.25ml/kg/min(750ml/hr)で持続投与する(Max8ml/kg)が推奨されている。
循環虚脱が持続する場合にはボーラス2回まで持続0.5ml/kg/minまで投与する!

 

より深く学びたい知りたい方は次の書籍に詳しく載ってますので確認してください。