麻酔科-くろねこBlog

麻酔科医と子育てとか日々の学び

初期研修でよくやる麻酔の維持編① (Remifentanil麻酔)

麻酔の導入編に引き続き

初期研修でよくやる麻酔の維持編 ①(Remifentanil麻酔)」です。

麻酔導入終わったのち指導医に任せられることになる部分、①血圧が下がった時の昇圧、逆に②血圧が上がった時の対応、③術中の輸液、など様々なところの注意点を。

 

今回は、「血圧が下がった時の昇圧」について

まずはよく使う薬から

※よく使う薬
・鎮痛



レミフェンタニル (アルチバ®️) Remifentanil(2mg/20ml):作用が早く切れも良い。持続で使用していても覚醒遅延を起こしにくい


・昇圧剤

エフェドリン Ephedrin(エフェドリン®️):40mg/1ml/A  生食9mlで希釈して4mg/1mlずつ使う(施設による)

フェニレフリン phenylephrine(ネオシネジン®️):1mg/1ml/A 生食9mlで希釈して0.1mg/mlずつ使う(施設による)

 

Q:手術中血圧が下がったら?

 手術中血圧が下がった時に何を考えるか。そもそも血圧にも収縮期血圧sBP・拡張期血圧dBP・灌流圧 MAPがある。測定の仕方にも血圧計で測る非観血的血圧測定  NBPと動脈圧ラインで測る A-Line圧 ABPがありどれを指標とするのが良いのか。

 ある程度保っておいて間違いないのは、 NBPでも ABPでもMAP65mmHgを保つこと(高血圧患者ではもう少し高い方が良いかも)。

 血圧を保つ目的は重要臓器血流の維持。臓器への血流の指標は収縮期血圧でもなく拡張期血圧でもなく平均血圧MAPで、ICU領域のStudyで現状この値を保つことが必要ではないかとされている。

 あくまで最低限で血圧の高い人ではある程度高く保つ必要がある。というのは脳など各臓器には臓器血流量を一定に保つシステムがあるため血圧が少し上下しただけでは血流量は変わらない。普段の±20%の血圧を維持することが重要になってくる。

 

 手術中に血圧が下がる原因は? 一番多いのは麻酔の深度のが深すぎること。手術侵襲に対してRemifentanilなどが過剰であると血圧が低下する一方になる。術野を見て手術侵襲に合わせて麻酔深度を調整してやる必要がある。

 とはいうものの怖いのは麻酔を浅くしすぎることによる術中覚醒、筋弛緩があるうちは不動化た持たれるが筋弛緩のない手術では術野の操作によっては大変危険なことになる。

 そのため麻酔深度(主に Remifentanilの鎮痛)が浅いかどうかの評価が必要になる。自発が残っていれば呼吸数、心拍数の変化などを見て考えるが、なかなか評価が難しければ昇圧剤で血圧を上げるのが手になる。

 

軽い手術で使用される昇圧剤としてはエフェドリンとネオシネジン。

他にはカテコラミン(DOA、DOB、NA)、バソプレシン、ミルリノンなど使われる(DOAはほぼもう使わないような気がする、酸素需要増えるし不整脈増えるし)。

 

今回は上記2剤について。カテコラミンなどについては心不全と絡めてまたどこかで。

 

簡単に二つの特徴を、

⑴Ephedrin(エフェドリン®️):α+β作動、頻脈、作用時間10分程度

⑵Phenylephrine(ネオシネジン®️):α作動のみ(pure α刺激)、徐脈、作用時間5分程度

エフェドリンはβ作用もあるため頻脈になる、 HR100とかの時には使いずらい。頻脈は一回拍出量の低下と心筋の酸素需要の増大につながるので(DOAが使われなくなったのものそれ)患者ごとに使うべきかどうかは考えるところ。逆にHR50とか徐脈の人には積極的に使いやすい。Remifentanilによる血圧の低下ではHRも同時に落ちてくるのでエフェドリンがバイタルを戻す上では最適解になることもある。

 

ネオシネジンは逆に純粋なα刺激薬。抹消血管を締めめる事によって血圧を上昇させる。心臓に対しては後負荷の増大につながり一過性に一回拍出量低下や徐脈をきたすこともある。抹消が開いていることが原因になる血圧低下に対しては使いやすい。Epi(硬膜外)、 くも膜下麻酔などで交感神経ブロックされて抹消血管が開いている時などには積極的に使っても良いかも。

あまりないけど閉塞性肥大型心筋症などによるSAMの血圧低下に対してはβ刺激使うとさらに血圧が下がるという悪循環に陥るのでその時はネオシネジンが最適解になります。 

どちらを使うかは適材適所。

どういう病態で血圧が下がっているか考えつつ使うといいかもしれません。エフェドリンの方が血圧の上りは緩やかで、ネオシネジンは脱水が加わったりしていると急激に血圧が上がる印象です(量が違いますけどね)。

目の前の患者さんに対して最適な昇圧剤は何か考えましょう。

 

 また今度、心不全とか前負荷、後負荷、酸素需要と各種カテコラミンの使い方とかは記事にしますね。