麻酔科-くろねこBlog

麻酔科医と子育てとか日々の学び

初期研修でよくやる麻酔の導入編 (Remifentanil麻酔)

  はじめまして、くろねこです。日々の学びと子育てと論文読んだりの麻酔ライフの日常をつらつらと綴っていきます。コメントいただけると日々の励みになりますよろしくお願いします。
 
 初期臨床研修医制度で麻酔科の実習が必須になって1ヶ月まわって研修すると少しわかるようになってまた次の科になってしまう。そんな短い期間で役立てるようにまずはよくやる麻酔の考え方から。
 

■導入編
全身麻酔の中で嵐のごとく流れていく導入。色々な薬が飛び交うのでそのあたりを整理していきます。一番よく行われているであろうRemifentanilを使った導入について。

導入では
血圧を下げすぎず、気管挿管刺激に耐えられる状況を作り気道を確保(挿管)」する。
そして一番重要なのは「換気(マスク)ができる状況を維持」すること。

※よく使う薬

・鎮痛
フェンタニル Fentanyl(0.1mg/2ml):  最大効果発現3min
レミフェンタニル (アルチバ®️) Remifentanil(2mg/20ml):血圧下がります
・鎮静
プロポフォール(ディプリバン®️) Propofol (200mg/20ml):1-2mg/kg  血圧下がります
セボフルラン Sevoflurane: MAC 1.7% MAC-awake 0.33MAC
デスフルラン(スープレン®️) Desflurane:
・筋弛緩
ロクロニウム(エスラックス®️) Rocuronium(50mg/5ml):0.6-0.8mg/kg
  
全身麻酔導入
(1)酸素化
患者さんが手術室に来院したら、自己紹介、患者確認、アレルギー聴取など。
モニター装着して血圧、SpO2、心電図 計測。問題なければマスクを当てて酸素化(O2:6L)を行う。酸素6Lで流すのは麻酔回路(半閉鎖式)に瞬時に酸素が満たされるから。深呼吸してもらうとわずかに早くなる。
(2)薬剤投与から挿管前まで
SpO2:100%になったら十分な鎮痛をして気管挿管刺激に備えるべく薬を投与する。鎮痛+鎮静+筋弛緩、重要なのは換気をできるかを常に確認する
 

流れ(身長150cm体重50kg)
 Remifentanilを0.3γ(9ml/hr)で流し、Propofolを1-2mg/kg(50-75mg 5-7.5ml)、 Rocronium 0.6-0.8mg/kg(30-40mg 3-4ml)を静注する。
※Fentanyl,Remifentanilでは咳反射、声門閉鎖 Propofol,Rocroniumには血管痛がある

 

 消耗反射消失を確認したら Sevoflurane3-5%にしマスク換気ができることを確認する。胃に空気を入れたくないので呼吸器の APL Valveをしめて25mmH2Oを超えないように圧をバックで調整し、TV200ml/回で回数で換気量を稼ぐ。

※この時、マスク換気できないと危険。行うべきことは⑴人手を呼ぶ⑵気道管理アルゴリズムに従いラリマ挿入・エアウェイ挿入などを試みる。それでも換気ができなければ気管切開、気管穿刺が必要になってくる。ピットホールとして後述するOpioidの声門閉鎖があるので注意する。

 

 Rocroniumを入れてからおよそ1-2分で挿管可能な筋弛緩が得られる。理想は鎮痛、鎮静、筋弛緩が挿管時に十分になるように調整すること。Remifentanilの鎮痛を挿管刺激に十分な血中濃度にするためには50-100ugのフラッシュも有効(後述)。

(3)挿管
男性では8cm、女性では7cmのチューブ、細かい挿管のテクニックについてはまたの機会に。重要なのは顎をしっかり外して口を開き、首に問題なければ後屈させること。

 挿管後は手術の開始までRemifentanil、Sevofluraneの濃度を下げて執刀まで待つ。酸素、空気量の調整も必要であれば適宜(必要な揮発ガスの量を減らせる)。

 

・細かいお話
(1)鎮痛は
 FentanylまたはRemifentanil。指導医によって好みが分かれるが、心機能が悪い時は同量で心機能抑制が弱いFentanylを使うことが多い。
 挿管刺激に耐えうる血中濃度は個人差あるが、 ED50 4.6ng/ml(Effective dose 50 半分の人に効果が出る) ED95 6.0ng/ml。Remifentanil(2mg/20ml)ではED50には0.3γで6min、0.5γで3min程度かかる(アルチバの投与量は理想体重で)。Fentanylの最大効果作用時間は3min程度であるので投与してから時間はしっかり見る。ちなみに血中濃度が2.0ng/mlを越えると臨床的優位な呼吸抑制が現れる。
(2)鎮静は
 Propofol 1-2mg/kgでやることが多い。50kgの人なら50-100mg(5-10ml)で。血圧は下がる。低タンパク血症など全身状態が悪いとすぐに血圧が下がるので注意。
 Sevoflurateはマスク換気にしてから送り込んで肺の奥まで行き渡らせる。喘息などに特に気管支拡張作用があるので使いやすい。Desfluraneは気道刺激性強いのであまり導入では使いずらいが、はけが良いので肥満症例などで覚醒が早くなる。
(3)筋弛緩は
  Rocronium 0.6-0.8mg/kgで。筋弛緩入れても CVCI(Can not ventilation can not intubation)になってしまった際にはSugammadex(ブリディオン)で拮抗することも。
 Sevofluraneにも筋弛緩作用はある。


 気をつけないといけないのはFentanyl、Remifentanilによる声門閉鎖による換気不能
Fentanyl、Remifentanilは単独でやると咳が出たり声門が閉鎖するので換気ができなくなる(要注意)。導入する薬の順番が重要。

 典型的失敗例は、
⑴血管痛を抑えるためまずFentanyl、Remifentanilを入れ
⑵Propofolで鎮静し消耗反射を確認、マスク換気ができるか確認する

その後に
⑶マスク換気をできるか確認してからRocroniumで筋弛緩を行う

 この順番だと⑵のマスク換気の段階で声門閉鎖が起こりマスク不能、呼吸が残っていれば陰圧性肺水腫などを生じうる。
 原因が声門閉鎖であると、対応は①筋弛緩を投与②持続陽圧をかけると改善する。

 声門閉鎖に対応するために、あらかじめ少量のRocroniumを入れてから導入をすることもある。腹直筋が硬くなってたりするので慌てずに全体をみて対応する。

 
 重要なのは、マスク換気>>>>>挿管

 初期研修では挿管ができることを目標としてローテートする人が多いが本当に重要なのはマスク換気ができること。挿管ができなくてもマスク換気さえしっかりできていれば患者は低酸素血症になることはない。

 救急外来で挿管が必要というのは呼吸が止まっているからではない。極論マスク換気さえできてしまえば挿管の必要がない。ただ気管への誤嚥のリスクがあるために挿管して消化器と気道を分離した方が都合が良いというだけ。

 初期研修では多分、挿管できる医者よりもマスク換気しっかりできる医者の方が重宝されますよ?マスク換気だけでも胃管を入れればなんとかなるもんね、きっと。