ややこしい〇〇倍ボスミン、〇〇倍アドレナリン
手術中に術者から
「〇〇倍ボスミン打ちます」
「1%キシロカインE入り等量割り〇〇ml打ちました」
など麻酔中に言われることがあります。
ようするにアドレナリンを局所注射するということなのですがどのぐらい局所注射されるのでしょう?
ポイントは
①アドレナリンとボスミンの名前でややこしい風習ができていること
②局所麻酔薬にも極量があるということ
①アドレナリンとボスミンの名前でややこしい風習ができている
ボスミンは1mg/ml/A のアドレナリン溶液のことです。
そもそもボスミンは0.001g/ml/Aの組成なので1000倍に希釈されたいわゆる1000倍アドレナリンになります。
しかしながら手術室では
「30万倍ボスミン」をボスミン1Aを生食300mlに溶いて作成します(3ug/ml Ad)。
これがややこしさを生んでいます。つまり「ボスミン=アドレナリン」として言葉を使っているのです。本来であれば「ボスミン=1000倍アドレナリン」のはずです。
そのため正しくは
「今での30万倍ボスミン」=「30万倍アドレナリン」=「300倍ボスミン」
という言葉で示すのが間違いがなくなりいいはずなのです、が病院に染み付いた風習はなかなか変えられないので、この名称で続けてしまっていることがあります。
ちなみに「E入りキシロカインシリンジ」は
キシロカイン注射液「1%」エピレナミン(1:100,000)であるため
リドカイン100mg/10ml
アドレナリン0.1mg/10ml
となり「1%キシロカイン、10万倍アドレナリン(または100倍ボスミン)」というのが正しいと(私は)思いますが、
こちらも病院では「10万倍ボスミン」とか呼ばれます
「1%キシロ+1%キシロカインE」も20万倍ボスミンと呼ばれますが、20万倍アドレナリンであり、200倍ボスミンと読んだ方が間違い無いかと思います。
ややこしいのはいいですが問題はどのぐらい局所注射すると危ないか?
正直呼び方なんて僕ら麻酔科医は気にしてなんかいません、大事なのはどのぐらいの量のアドレナリンが局所注射されたかです。
怖いのは大量のアドレナリンが静注になったときで容易にVF VTになります。
CPRの蘇生でボスミン1mg/mlが静注Shotされますがあれはかなり多いです。止まった心臓を無理やり起こすのでしょうがないのでしょうが、投与後よくVfやVTになるのは経験するところだと思います。
ということは生きている患者にその量をいくのがいかに危険かがわかると思います。
アナフィラキシーで使用するボスミンは0.3mg(300ug)を筋肉注射でゆっくり吸収させます。たまに静注することもありますがバイタルがある程度保たれているうちは打つとしても10ug~と比較的少量でいきます。
つまり10ugもしIVされるとかなり血圧、心拍数はあがります。
◎等倍希釈E入りキシロカイン(10ml)は
20万倍アドレナリン
=200倍ボスミン:1mg/ml/200=5ug/ml
2mlの局所注射で10ug
60mlのIVで300ugのアナフィラキシーの治療量になります。
◎通称30万倍ボスミンでは
=300倍ボスミン :1mg/ml/300=3.3ug/ml
3mlの局所注射で10ug
90mlのIVで300ugのアナフィラキシーの治療量になります。
なんとなくこんなイメージを持っておくと(注射される場所によってかわりますが、皮下、筋、脂肪)どのようなバイタル変化がいつあらわれるか予想しやすくなります。
ちなみに全身麻酔中はアドレナリンの局所注射の極量というのが添付文書に記載されており、
ハロゲン化吸入麻酔薬(セボフルラン、デスフルラン、イソフルラン)を使う際にはアドレナリン注入量が多くなると、心室性不整脈が出やすくなります。
セボフルランは5μg/kg以上
デスフルランは7μg/kg以上
イソフルランは6.7μg/kg以上
が不整脈が危険と言われています。
一番閾値が少ないセボフルランでは、
体重50kgだと250ugまでの使用となるので、20万倍希釈液の50mLが極量ということになります。
②局所麻酔薬にも極量があるということ
麻酔科以外に意外と知られていないことですが、局所麻酔薬には極量があります。
よく使われる局所麻酔薬でいうと
①キシロカイン:E入り7mg/kg Eなし4-5mg/kg(または大人で200mg)
②アナペイン:3mg/kg
③ポプスカイン:3mg/kg
①キシロカイン:
1%キシロカインE入り1mL中には10mgのキシロカイン入っているので、
50kgだと、7×50=350mg(35mL)
3本ぐらいまではいける計算になります。
②③アナペイン、ポプスカイン:
50kgの人に150mg/20ml(7.5% 製剤)の場合を使用する場合
50kg×3mg/kg=150mgが極量なのでもし使用する場合には1Vまでしか使ってはいけない。
そのため術者に局所麻酔をお願いするときはしっかり体重を一応確認しています。
この局所麻酔とアドレナリンの極量を意識しながら日々の臨床をこなしていただけるとみんな幸せになる気がします。
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